マールとパパの親子ケンカから下山まで
マール「パパ! どうして分かってくれないの?」
パパ「公務をやりたくないお前の気持ち。分かるが我々は王族なのだ。国民の象徴として務めを果たす義務があるのだよ。
マール「義務って何? 私達、人からなんて言われてるか知ってる? 国費を食い潰す害虫よ? 私達、誰からも必要とされてないの!
パパ「そんな事はない。国費といってもあくまで活動は挨拶周りや祭事のみだよ。我々の生活の殆どは一族が運営する企業活動で成り立ってるのだよ。
マール「そんなの綺麗事よ! 独占禁止法に引っ掛かりそうなくらい支配者の立ち位置。オカネを独占しているのは私達なのだから、国民は空気を読んで奴隷の様に働くしかなくなる。
パパ「そんな極端な…。生活保護制度や福祉制度があるだろう? 職の選択肢があるのに奴隷だなんて…
マール「ガルディアだけでも年間の自殺者が2万人もいるのよ? 実質的な奴隷制度じゃなきゃ、こんな事にはならない…
パパ「勉強熱心なんだね…、マールは…。でもマールはまだ分かっていないのだよ。
マール「分かってない?? 私は沢山勉強したの。 分かってないなんて、どう分かってないのか、ちゃんと説明してよ!
パパ「…」
マール「ほら、答えられない。私はもう公務はしません。国民にとって必要のない王族として、もっと必要ない存在になってやるわ。」
パパ「…」
マール「…」
従者「そろそろお時間になりますが…」
父ガルディア33世はこの日千年祭の祝辞をする仕事があった。
マールは王族として、父のそばに同席し、マスコミに笑顔を振りまき、王家が健全である事を内外に知らしめる役割になっていた。それは制度で縛られたルールではないが、王家の風習として事実上の強制性のある公務だった。
この日マールはその公務を放棄し、マスコミの前には現れないつもりだった。髪型を変え、王族とは判らない格好で、単なる一国民として千年祭の行事に参加するつもりだった。
マールは父と喧嘩してイライラしていた。
と同時に悲しくもあった。覆面護衛に監視される自分と、千年祭を楽しむ一般の人々。家族連れ、友達連れ、自分とは異なり、和気あいあいとしている人々を眺める。
父との関係は修復不能。マールにとって王族の無意味さについての信念は、曲げられない殆に凝固なものになっていた。父の価値観が変わらない限り、二度と笑顔では歩み寄れない。
マールは悔しかった。自分には友人なんてひとりもいない。親友ってなんだろう。
なぜ周りの人々はこんなにも笑顔なのだろうか?
孤独に押し潰されそうになる。
マールは走りだした。
この先の人生、もうどうでも良くなっていた。
護衛を振り切り逃げる事で自身がトラブルの象徴の様な存在になればいいとも思っていた。そうすれば王家はもっと不要な存在になる。
「王族なんていらない! もっと世間に文句を言われればいい!」
マールはどこをどう走ったのか覚えていない。
涙で目がかすみ、前をよく見ないまま、気付けばリーネの鐘まで走っていた。
誰かにぶつかって落としたペンダント。
「お母さんのくれたペンダント」
「拾ってくれてありがとう」
「私の名前は…」
マールは気付いたら、その誰かに自己紹介をしていた。本名マールディアを隠して…
その誰かの名前をクロノという。
クロノは泣いているマールを見て、千年祭のブースをあちこちを見せて回った。
記念写真をとり、幼地味のルッカの話をし、買い食いをした。
超次元転送マシンまでつれていかれる頃にはマールは半分程度立ち直っていていた。
マールの目的はある意味で王家の恥を晒すこと。王家をいらない存在だと思わせること。しきたりや、敬語や礼儀、ルールなんてのは今のマールにとっては
「くそったれ!」
超次元転送マシンは人でのデモンストレーションを求めていた。
会場にいる人から名乗りを求めていた。
マールは名乗り出る事もなく、マシンの椅子に座った。
「おお! 募集開始から一分。ついにでました! 人々の波をかき分けるように強引に椅子に座ったこのお方! 名前は…」
マールは無言だった。
「元気が宜しくていいですね!」
会場は鎮まりかえっていた。
人間による初めてのデモンストレーション。マスコミは結果が成功するか否か、死ぬか生きるか、あらゆる可能性の記事を書く用意ができていた…
○
「わたし…。このまま死ぬのかな…」
青い黒世界、暗い世界が視界に広がる。どうせ死ぬなら明るい世界が良かった。
いずれにせよ
「パパ、悲しむだろな…」
クロノ、手を伸ばして助けてくれようとしてたな…
クロノだけが…
ある意味、ドラマのヒロインみたいなシーンにマールは苦笑した。
事故の最初の犠牲者になったのだろうマール。
(ある意味、私が身を張って危険を証明したということよね? 他に犠牲者になる筈だった誰かを助けたと思えば気が楽だよね…)
ゲートから出た直後、3体の魔族に囲まれて逃げ道を塞がれたマール。
2体の魔族はマールの足にしがみつき転ばせると、もう一体がマールを失明させ動きを封じようと顔を攻撃してきた。
マールは手で払い除けようとするが、時間の問題であり、マールの体力が尽きた時、死が待っていた。
2分、3分、マールが必死で防御していると、次元の穴からクロノが現れた。
クロノもマールと同じで魔族を見たのは始めてだった。
マールの悲鳴により、ただ事ではない事を直ぐに察知し、
クロノは魔族に蹴りを浴びせた。
魔族はクロノの蹴りを受け止めると、クロノの身体を登り、首を絞めはじめた。
振り払おうとするが、腕を魔族2体に抑えられた。
クロノは意識が飛びそうになり、もがき苦しむ。
クロノが攻撃を受けることでマールは魔族から開放された。恐らくマールは『弱い』と判断され後回しにされたのだろう。
マールは許せなかった。自身を助けにきた王子様をいきなり殺そうする訳の判らない存在を許せなかった。
ボウガンは持たないが、いざという時の為、防犯対策用の催涙スプレーを所持していたマール。
魔族達の目に浴びせた。
3体の魔族はもがき苦しむ。
殺してやろう! そう言いたかったマールだが、王子様の手前、自制した。
マールが自制しているとクロノから『殺そう!』という言葉が飛び出した。
(よくぞ言ってくれた王子様! 私も貴方と一緒なら修羅の道を歩けるよ!)
『こいつら私を失明させようとしたの。』
クロノは手近な石を拾い上げると3体の魔族の目を潰した。
この先、一生目が見えなくなる魔族達。
でもそれでいい。この魔族を野放にしておけば、犠牲者が出るだろう。マール達はまだ見ぬ未来の被害者を救ったのである。
とはいえ二人共、細々と未来の事を考えていた訳でない。ただ目先の脅威を排除し、恐怖に支配された憎しみを解消したかっただけ。
「ねえ? あれってガルディア城よね?」
「私達、会場からここまで、飛ばされたってこと?」
マールはクロノの手を強く握った。
山から見える景色への違和感。
城下は二人が知っている町並みではなかった。
マールもクロノも不安だった。
山を降りてもさっきの様な化物に襲われるかもしれない。
「クロノ…。助けに来てくれて有難う。私、絶対貴方を…」
女らしくもなく男らしい台詞が出そうになり、言葉を飲み込んだマール。
マールはクロノを守る様に前を立ち、歩き出した…
マップ構造はhttp://chrn.opatil.com/story/c02.html
「注意を反らして進もう…」
クロノは石を拾うと上流に向かって投げた。
音に反応し、川を見に向かう魔族達。
二人は隙を見て先に進んだ。
崖際にて足元に手袋の様なもの『※パワー手袋』が落ちてる事に気付く。
崖の下には魔族が見える。
『ねえ、クロノ、この手袋を投げて奴らの注意を反らそうよ』
マールが手袋を手に入れた瞬間、みなぎるパワーを感じた。
『な、ナニコレ? ただの手袋じゃない!?』
クロノが持つと、クロノにもパワーがみなぎった。
ふと崖下を見ると魔族もこの手袋を身に着けていた。
『クロノ、どういう事か分からないけど、この手袋はパワーが上がるみたいよ? 私達が頂いておきましょう』
クロノと会話をしていると、魔族達が戻ってくる足音。
『一先ずその手袋はクロノが装備してて』
クロノはパワー手袋を装備した。
現在のステータスから二割殆の力が増した。
先に進む二人。
道先にいる2体の魔族は緑の生物をボールの様に蹴り合うという虐めをしていた。
虐めに夢中な魔族達は、ある程度の隙がありそうだった。
二人は意を決して、全力で走り抜けた。
魔族達の視界を横切る二人。
魔族は二人に気付くと、食料を見つけたと喜び、追いかけてきた