サイラスとグレン、魔王とビネガー
サイラスは鎧を脱いだ。30kgある鉄製の甲冑では魔王の速度に到底追い付けなかったからだ。
魔王は魔力で身体強化ができた。それにより音速を越えて動く事も可能で、人間では端から勝負にならない。
まるで虫を追っ払うかの様にサイラスを返り討ちにした。
魔王にとってはウザイハエを殺虫剤で殺す程度の感覚だった。
そのウザイハエでもあるグレンだが、圧倒的力差を目の当たりにしながら、逃げもせず立ち向かってくる。魔族であれば決してこの様な情に流される事はしない。
魔王にとってはそこがターニングポイントになったのかもしれない。殺す事を躊躇してしまった。
『醜いカエルとして生かして人間共に魔王様の力を知らしめましょうぞ!』
ビネガーの意見にしては的を射ている。だが、ビネガーの言うとおりにするのも面白くない気がした。言いなりだと思われてしまえば魔界での威厳に関わる。
魔王はカエルの呪いに遊び心を加えた。
細胞レベルでカエルにする事で人知を越えた身体能力を与える事になるかもしれない。が、それはそれでビネガーがあたふたする姿は見物だろうと。
魔王は去り際に言った。
『ビネガーだって緑のぶつぶつの癖に。カエルとさして変わらない癖に…。お前だって醜悪なんだぞ』
ビネガーは思った。いつかこいつをぶっ殺そうと。